最近は古いディスクガイドを読むのにハマっています。今まであまり通って来なかったんですが、こうやって自分の好きな盤が部屋の棚に揃ってくると、なんだか答え合わせのような気分で読むことができるのです。時には持っている盤に赤ペンを入れてみたり(高校生か…)、的外れな批評に首をかしげたり。
僕はご存知の通りシンガーソングライター物が大好物なので、自ずとSSWのディスクガイドを中心に手を出しているのですが、ミュージックマガジン増刊の小さいサイズのディスクガイドは中々楽しいですね。僕よりちょっと先輩の世代の人たちには「ウッドストックミュージック」「アメリカンルーツロック」そして「シンガーソングライター」特集は「3種の神器」らしいですが、こんなものを持っていても自分の財布がやせ細るだけなので、一体どこが神器なのかよくわかりません(笑)。いやいや、「ウッドストックミュージック」特集はコンプリートを目指し、今日も各地のレコ屋とDiscogsを行ったりきたりする毎日です。
他にも色々なディスクガイドを集めているのですが、僕が愛してやまないSSWがなぜかどの本にも取り上げられていないのです。その人の名はボブ・リンド。”Elusive Butterfly”が代表曲として知られています。ググるより聴くが易し。
いかがでしょう。素晴らしい曲ではないですか。声も、どこかゲイリー・ルイスに苦労人の渋みを足したような(60年代アメリカンポップスギャグ!)親しみやすくそれでいて淡々としており、非常に好感が持てます。この楽曲についてはアレンジが秀逸なのですが、あのジャック・ニッチェの手によるものですから納得。こりゃあ世界中でヒットもするよなあ。
ボブ・リンドとジャック・ニッチェは66年に2人で組んで2枚のアルバムを出しています。リンドが曲を書き、ニッチェがプロデュースとアレンジメントを。こちらは未発表を含む25曲入りのCDとして再発されておりますが、この渋いSSWと鬼才アレンジャーの組み合わせ、のちのバーバンクサウンドにも通ずるようなきらびやかな化学反応をみせており、かなりオススメです。
しかし全米&全英5位とバカ売れした”Elusive Butterfly”以降は商業的にはあまりパッとしなかったようで、レーベルもワールドパシフィックとヴァーブを行ったり来たり。まあ、作曲家としては売れ線だったのですが、ここでバーバンク全盛期にレニー・ワロンカーにでも拾ってもらったりしたらまた違った展開もあったのかも…しかし、もしそんなことになっていたら、このSSW名盤は生まれていなかったのです。
1971年に突如Capitolからリリースされたアルバム”Since There Were Circles”、LPの裏ジャケには、こう書いてあります。
「ボブ・リンド、あの”Elusive Butterfly”の作曲家。彼は2年前にハリウッドの喧騒から逃れ、移り住んだニューメキシコはサンタフェの地で、砂漠をバイクで駆け巡り、そして曲を書いた。このアルバムの曲は、彼の過去の人生の追憶(recollections)と、彼の新しい人生の投影(reflections) からなるもの」(拙訳)
この言葉の通り、ニッチェと組んでいた時代の優雅なメロディーラインはそのままに、砂の混じったザラついた声とアレンジの変貌ぶりに驚きます。まるで初期〜中期のバーズを思い起こさせ、ジーン・クラークが参加していることからも、カントリー・ロックからの強い影響が感じられます。このアルバムにはプロデューサーがクレジットサれておらず、ボブ・リンドが当時やりたかったことを全て詰め込んだものと推測されます。”Elusive Butterfly”はもちろん素晴らしかったけど、半分はニッチェの作品ですからね。果たして、フォークロック(でもそれだけじゃ語り尽くせない)SSW名盤が誕生したわけです。
僕がこの盤に最初に出会ったのは、今は無き三軒茶屋のフラップノーツ。もちろん当時はCD、砂漠にたたずむジャケットに惹かれて試聴もせずに購入したのですが、大正解でしたね。このお店では他にもドギー・マクリーンやレニー・マクドナルド、シェップ・クックなどの隠れた名作に出会うことができました。つくづく閉店が残念です。
で、LPはなぜか2013年に500枚限定でリイシューされまして。僕は京都のメディテーションズで発見し迷わず購入しました。さすがにもう残っていないかな?CDも廃盤に近い状態ですし、見つけたら是非買って聴いてほしいなと思います。
ボブ・リンド本人は作曲家として活動を続け、2012年にも元気に新譜を発表しています。ディスクガイドに載ることがすべてじゃないけど、これからも聴き継がれていってほしい、素晴らしいミュージシャンです。